熊本地方裁判所 平成7年(わ)486号 判決 1996年3月28日
本籍
熊本県天草郡大矢野町大字登立一四〇一八番地
住居
熊本市本山町一〇六番地
サーパスシティ熊本八一一号室
会社役員
川床貴志
昭和二八年二月一二日生
事件名
所得税法違反
公判出席検察官
寺本茂夫(求刑 懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円)
同私選弁護人
柴田憲保
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、有限会社天草衛生設備工業、有限会社熊本海運、有限会社熊本メンテナンス及び有限会社大矢野衛生社の出資持分等を八光海運株式会社に売却したものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売却代金の一部を除外する等の方法により所得を秘匿したうえ、平成四年三月一六日、熊本県本渡市古川町四番二号所在の所轄天草税務署において、平成三年分の実際総所得金額が七億四〇九八万一〇九〇円であったにもかかわらず、同税務署長に対し、総所得金額が七七〇四万七二九〇円で、これに対する所得税額が一六四三万七六〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億四八九一万八二〇〇円と右申告税額との差額一億三二四八万〇六〇〇円を免れたもの(ほ脱所得の内訳・内容は別紙「修正損益計算書」及び「ほ脱所得の内訳明細」記載のとおりであり、ほ脱税額の算定は別紙脱税額計算書記載のとおりである。)である。
(証拠の標目)(括弧内の数字は証拠関係カードの検察官証拠請求番号を示す。)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官(二通乙二〇、二一)及び収税官吏大蔵事務官(一七通。乙三ないし一九)に対する各供述調書
一 川床榮子(甲一九)、川床照子(二通。甲二〇、二三)、山下丈一(甲二一)及び山下美知子(甲二二)の検察官に対する各供述調書
一 鈴木豊(甲二四)、田渕憲一(甲二五)、大澤千鶴(甲二六)、西朋栄(甲二七)及び田上洋行(甲二八)の収税官吏大蔵事務官に対する各供述調書
一 収税官吏大蔵事務官作成の次の書面
<1> 脱税額計算書(甲三)
<2> 脱税額計算書説明資料(甲四)
<3> 短期譲渡収入調査書(甲五)
<4> 短期譲渡原価調査書(甲六)
<5> 長期譲渡収入調査書(甲七)
<6> 長期譲渡原価調査書(甲八)
<7> 特別控除額調査書(甲九)
<8> 株式等譲渡収入調査書(甲一〇)
<9> 株式等譲渡原価調査書(甲一一)
<10> 有価証券取引税調査書(甲一二)
一 検察事務官作成の捜査報告書二通(甲一、二)
一 登記官作成の商業登記簿謄本六通(甲一三ないし一八)
(法令の適用)
罰条 所得税二三八条一項
刑種の選択 懲役刑及び罰金刑の併科を選択
なお、情状により罰金額につき所得税法二三八条二項を適用して免れた所得税の額に相当する金額以下とする
宣告刑 懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円
労役場留置 平成七年法律第九一号による改正前の刑法一八条(金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置)
懲役刑の執行猶予 同法二五条一項(三年間猶予)
(事案の概要並びに量刑の理由)
本件は、平成三年一〇月に判示有限会社天草衛生設備工業など四社の出資持分すべてを八光海運株式会社に売却した被告人が、その売却代金を過少に申告して所得税を免れた事案であるところ、その脱税額は金一億三二四八万〇六〇〇円と多額であるうえ、ほ脱率も約八九パーセントと高率であること、ほ脱の手段も脱税用の領収証を作成したり、無記名割引金融債券を購入するなどして所得を隠匿するなど計画的で悪質であること、当時被告人は現職の大矢野町議会議員であったこと、その動機にも特段斟酌すべき事情は認められないこと等の事情に照らすと、その刑事責任は重いと言うべきであるが、事件発覚当初から事実を認め、その後、被告人は脱税本税、延滞税及び重加算税、町税のすべてを納付したこと、前科前歴はなく、本件犯行を反省していること等の事情も考慮し、その懲役刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 杉森研二)
修正損益計算書
<省略>
ほ脱所得の内訳明細
<省略>
ほ脱所得の内訳明細
<省略>
脱税額計算書
<省略>